IT業界では「SES」「請負」「準委任」という言葉が日常的に使われていますが、契約の本質を正しく理解していないことが原因で、トラブルや違法状態に陥るケースが非常に多いのが実情です。
本記事では、
- 法律上の位置づけ
- 責任の範囲
- 指揮命令の考え方
- 実務で起きやすい誤解
を整理しながら、「どこが違うのか」「何に注意すべきか」を分かりやすく解説します。
まず結論から:最大の違いは「何に対して報酬が支払われるか」
3つの契約形態の違いを一言で表すと、次の通りです。
- 請負契約
→「成果物の完成」に対して報酬が支払われる - 準委任契約
→「業務を誠実に遂行すること」に対して報酬が支払われる - SES
→ 法律上の契約類型ではなく、多くの場合は準委任契約として運用される働き方・商慣習
この違いを理解するだけで、契約トラブルの8割は回避できます。
請負契約とは
請負契約の基本
請負契約とは、
「仕事の完成を約束し、その完成に対して報酬が支払われる契約」
です。
つまり、成果物が完成しなければ報酬請求ができないという点が最大の特徴です。
請負契約の特徴
- 成果物の完成義務がある
- 納期・品質に対する責任が重い
- 仕事の進め方は原則として請負側の裁量
- 発注者は直接の労務指揮命令を行えない
- 契約内容と異なる場合は契約不適合責任を負う
代表的な例
- Webサイト制作
- システム一式開発
- アプリ開発案件
請負契約のメリット・デメリット
メリット
- 報酬が成果物ベースで高額になりやすい
- 仕事の進め方の自由度が高い
- 人の入れ替えが可能
デメリット
- 責任が非常に重い
- 仕様が曖昧だとトラブルになりやすい
- 追加要望への対応は契約変更が必要
- 赤字リスクがある
準委任契約とは
準委任契約の基本
準委任契約とは、
「一定の業務を、専門家として誠実に遂行すること」
を目的とした契約です。
成果物の完成義務はありません。
準委任契約の特徴
- 完成責任はない
- 業務遂行プロセスが評価対象
- 善管注意義務(プロとしての注意義務)がある
- 報酬は時間単価・月額固定が多い
- 業務内容の変更に比較的柔軟
代表例
- システム運用・保守
- 技術支援
- コンサルティング業務
準委任契約の注意点
「完成義務がない=何をしてもいい」ではありません。
- 明らかに不適切な業務遂行
- 専門家として著しく注意を欠いた行為
これらは善管注意義務違反として責任を問われる可能性があります。
SESとは何か(重要)
SESは「契約形態」ではない
SES(システムエンジニアリングサービス)は、法律で定義された契約名称ではありません。
実務上は、
- 多くの場合「準委任契約」として締結
- エンジニアが発注先(客先)に常駐
という形で運用されるIT業界特有の商慣習です。
SESの特徴
- 客先常駐が前提
- 人月・時間単価で報酬が決まる
- 成果物完成義務は原則なし
- 長期契約になりやすい
一方で、契約内容と実態がズレやすいという大きなリスクがあります。
「指揮命令」の誤解が最も危険
ここが最重要ポイントです。
指揮命令には2種類ある
多くの誤解は、「指揮命令」という言葉を一括りにしていることから生じます。
業務上の指示(OKなもの)
- 業務内容の説明
- 仕様や要件の共有
- 優先順位の指示
- 進捗確認
これは準委任・請負でも通常行われます。
労務の指揮命令(NGになりやすいもの)
- 勤務時間の指定・管理
- 残業命令
- 休暇取得の指示
- 人事評価・懲戒
これらは派遣契約でのみ制度上認められている行為です。
SESで起きやすい問題
SES(準委任)のはずなのに、
- 客先が勤怠管理をする
- 毎朝の朝礼参加を強制
- 残業を直接命じる
といった状態になると、実態が労働者派遣と判断される可能性があります。
これがいわゆる偽装請負(偽装派遣)問題です。
SES・請負・準委任の比較表
| 項目 | SES | 請負 | 準委任 |
|---|---|---|---|
| 法律上の位置づけ | 多くは準委任 | 請負 | 準委任 |
| 報酬の対象 | 業務遂行 | 成果物完成 | 業務遂行 |
| 完成義務 | なし | あり | なし |
| 業務指示 | あり | あり | あり |
| 労務指揮命令 | 本来なし | なし | なし |
| 自由度 | 低め | 高い | 中程度 |
| 違法リスク | 高い | 低い | 低い |
よくある誤解
SES=派遣
→ 誤り
派遣は派遣先が労務指揮命令を行うことが制度の前提です。
準委任なら成果が出なくても問題ない
→ 誤り
完成義務はないが、誠実な業務遂行義務はあります。
キャリア・事業視点での使い分け
- 経験を積みたいエンジニア
→ SES・準委任で現場経験 - 裁量と単価を上げたい
→ 請負案件 - フリーランス・法人
→ 案件内容に応じて請負と準委任を使い分け
まとめ
- SESは契約名称ではなく働き方
- 請負は「成果責任」
- 準委任は「業務遂行責任」
- 指揮命令は「業務指示」と「労務指揮命令」を分けて考える
- 契約書と実態のズレが最大のリスク
以上、SESと請負と準委任の違いについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。










