SES(システムエンジニアリングサービス)業界では、「引き抜き」と「給料が上がりにくい理由」が頻繁に話題になります。
しかし、この2つは感情論や噂話で語られがちで、契約構造・法的前提・商流を整理しないと、正確に理解することができません。
本記事では、
- SESで引き抜きが起きる理由
- なぜ簡単には成立しないのか
- 給料がどう決まり、どこで差がつくのか
を現実的かつ誤解の少ない形で解説します。
まず前提:SESと「労働者派遣」は同じではない
SESはよく「派遣と同じ」と言われますが、契約上は別物です。
- 労働者派遣
- 派遣先が業務指示を出す
- 労働者派遣法の規制を直接受ける
- SES
- 多くは「準委任契約」または「請負契約」
- 業務の遂行が目的で、指揮命令は原則として受けない建前
実務上は派遣に近い働き方をしていても、法的な扱いは契約次第で変わるため、この違いを混同すると引き抜きや契約の話で誤解が生じます。
SESで「引き抜き」が起きる理由
SESの現場では、次のような形で引き抜きの話が出ることがあります。
- 常駐先企業が「この人を正社員で採りたい」と考える
- 現場で関係のある別会社がスカウトしてくる
- SESのままでも「別契約・別条件で入り直さないか」と声をかけられる
これは珍しい話ではありません。
理由は単純で、すでに実績があり、能力も人柄も分かっている人材は、採用リスクが低いからです。
それでも引き抜きが簡単に成立しない理由
契約上の制約が存在することが多い
SES契約や基本契約には、以下のような条項が含まれていることがあります。
- 契約期間中・終了後一定期間の「直接雇用・勧誘の禁止」
- 転籍・直接雇用時の事前協議条項
- 不勧誘条項(当事者間で人材を引き抜かない)
これらは常に有効とは限りませんが、存在する以上、無視して動くとトラブルになりやすいのが現実です。
「違法だから無視できる」わけではない
たとえ条項の一部が無効になり得るとしても、
- 契約違反として揉める
- 現場・業界内での信用を失う
- 転職先企業がリスクを嫌がる
といった実務的な問題が起きる可能性があります。
派遣との決定的な違い(ここが混同されやすい)
労働者派遣の場合、派遣法の考え方として、
- 派遣終了後に派遣先が直接雇用することを
- 派遣元が不当に妨げることは好ましくない
という整理がされています。
一方、SES(準委任・請負)では、この考え方がそのまま適用されるとは限りません。
そのため、
- 「派遣ではOKだからSESでもOK」
- 「派遣法的に問題ないはず」
という短絡的な判断は危険です。
実務で多い「現実的な落としどころ」
引き抜きが話題になった場合、実務では次のような対応が取られることが多いです。
- 現職会社を通した協議(円満な形での転職)
- 契約満了後に改めて検討
- 直接雇用ではなく、条件変更による再契約
いずれも、「法的に完全に安全」だからというより、揉めずに進めるための現実解です。
SESの給料はどう決まるのか(構造の話)
SESの給料は、単純に「案件単価=給料」ではありません。
案件単価からは、以下のようなコストが差し引かれます。
- 社会保険の会社負担分
- 管理部門・営業の人件費
- 待機リスクの吸収
- 会社の利益
残った部分が、給与・賞与・手当の原資になります。
商流が給料に与える影響
商流が深くなるほど、給与原資は減りやすい
- 元請 → 二次 → 三次…と会社が増えるほど
- 同じエンジニア単価でも、分配される額は減る
その結果、
- 「単価は高いと聞いているのに給料が低い」
- 「現場評価は高いのに年収が伸びない」
という不満が生まれやすくなります。
ただし「中間会社=悪」ではない
- 教育・フォロー・待機保証が手厚い
- 営業力があり、安定した案件供給がある
こうした価値を提供している会社であれば、一定のマージンがあるのは合理的です。
「還元率」という言葉に注意する
SES業界でよく使われる「還元率」は、定義が会社ごとに異なります。
- 単価から何を引いた後の率なのか
- 社会保険・交通費・待機コストは含まれているのか
これを確認せずに比較すると、見かけ上の数字に惑わされやすくなります。
引き抜きや転職の話が出たときに見るべきポイント
年収の数字だけで判断するのは危険です。
最低限、次の点は確認すべきです。
- 基本給と賞与の位置づけ
- 残業代(みなしか実費か)
- 評価制度と昇給のロジック
- 常駐が続くのか、内製化なのか
- 中長期的なキャリアパス
また、現職の契約や誓約書の内容確認も欠かせません。
まとめ:SESにおける引き抜きと給料の本質
- 引き抜きは現場では起きるが、契約と立場の整理が不可欠
- 派遣とSESは法的前提が異なり、同列には扱えない
- 給料は「単価」ではなく「構造」で決まる
- 商流・職域・会社の立ち位置が年収差を生む
SESで不利にならないためには、「感覚」ではなく「構造」を理解して動くことが何より重要です。
以上、SESにおける引き抜きと給料の実態についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。










